気分転換しようと思いまして、去年作った多段式LGで遊ぶことにしました。乱雑にしまってあったんで結構断線してたり若干修理が必要でした。
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どんな回路だったか思い出すついでに基板の配線も見直してみたところ、電流検出の部分に配線ミスが見つかりました...。つまり以前の実験結果が全部おかしかったことになりますが、影響はそんなに無いようですし、どうせ今回実験し直すのでまぁいいです。

実験するにあたり、速度測定用の光センサを先端部分に追加しました。
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今回の実験では電流引き抜きの効果について確かめようと思います。電流引き抜きは私が勝手に読んでる名前ですが、それが何なのかは今から説明します。

まず、一番初歩的というか、簡単というか、よく見るというか、サイリスタまたはトライアックを用いた回路がありますよね。サイリスタ系は電流容量が大きめで入手性が良いのでよく使われます。
サイリスタ型
LGでは、プロジェクタイルが加速コイルの真ん中らへんに来たあたりで電流が止められれば、つまりは通電時間を変えられれば、引き戻しが発生せず効率が良くなるはずです。
しかし、サイリスタは自己消弧は不可能であり、通電時間の動的な変更ができません。(還流ダイオードがなかったらどうとか逆充電がどうとかは今回は割愛します...)
この回路の場合、通電時間はコンデンサの容量とコイルのインダクタンスや抵抗成分などで決まるため、それらを調整していい感じになるようにします。(なお実質変更できるのはコンデンサの容量のみなので、コンデンサを付けたり外したりして調整しているのをよく見かけます)


でもそんなの面倒くさい、通電時間を自由自在変えたいということで、スイッチング素子をMOSFETやIGBTなどの自己消弧可能な素子に置き換えたものが考案されました。
MOSFET型
パッと見通電を途中で切れる感じがしますよね。しかしよく考えると、素子がOFFしたところでダイオードを通って還流して結局のところサイリスタ型とやってることほどんど変わらないんですわ。ちなみにこのダイオードがなければ過電圧が発生して素子が壊れます。

両者の回路をシミュレーションしてコイル電流を見てみました。3msのところで電流を切ろうとしてます。
緑がサイリスタver、赤が途中で切ろうとしたverです。回路の抵抗成分で電流が減衰するのを待つのみで、切りたいところで切れていないのがわかります。
電流波形比較1


それで考案されたのが回生型回路です。今までとは違い2つ素子を使い少々複雑です。
回生型
両方の素子をONすることでコイルに電流が流れ、両方OFFで電流を切ります。OFF時のコイルの両端電圧はコンデンサ電圧と同じくらいになるので、コイル電流をスパッとゼロまで落とすことができるのです。黄色がその波形です。
電流波形比較2

他にもスパッとする回路はいろいろありますが今回は省略します。


このスパッとゼロまで持っていくことをを電流引き抜きと呼んでますが、実際のところどの程度効果があるのか確認してみたいと思い、実験することにしました。




実験の前に、使用した回路やコイルなどの装置の説明をします。
コイルは5段で、間に光センサ、先端の方には先程追加した速度測定用の光センサがあります。
本体

回路全体はこのようになっています。いわゆるフル回生型のものです。
全体回路図
主回路がA回路とB回路に分かれているのは、1段目を通電した直後に2段目を通電したいとか、2段同時通電とかをやりたかったからです。

回路の制御はマイコンで行います。電流の制御自体はマイコン内のオペアンプ、コンパレータ、ロジック回路などを使いハードウェア的に行い、どの段を何秒間動かすかなどの処理はソフトウェアで行います。
以下の画像がそのマイコン内の回路ですが、これがA回路用とB回路用の2セットあります。[ハイサイド制御]、[ローサイド制御]とローサイド素子(M2~M4)の切り替え部分がソフトウェア側で制御するところです。
内部回路図
この回路を組むと、加速コイルの電流を定電流制御することが出来ます。




実験方法について説明します。

今回は電流引き抜きなしと電流引き抜きありの2つの方法を比較するため、MOSFETの通電パターンを変えます。

まずは電流引き抜きなしの方です。
ハイサイド素子(M1)は、[ハイサイド制御]がHかつコイル電流が一定以下ならON、そうでなければOFFするようにし、ローサイド素子(M2~4)は[ローサイド制御]を常時Hとしていかなる時でもONにします(もちろん駆動する段によってM2~4のどれかを選ぶ形になります)。
[ハイサイド制御]をLにして通電を停止しようとしても、コイル電流はD1-コイル-ローサイド素子を還流する形で流れ、コイル両端の電圧も小さいため、比較的長い時間電流が流れ続けるはずです。
この動作は先述した"電流を途中で切ろうとしたけどうまく切れなかった回路"に相当します。

次に電流引き抜きありの方です。
ハイサイド素子(M1)の動作は電流引き抜きなしの方と同じです。ローサイド側の動作が先程と異なっており、通電を停止しようとすれば、[ローサイド制御]をLにしてローサイド素子もOFFになるようにします。するとコイル電流はD1-コイル-D2(~D4)-コンデンサバンクの形で流れることになります。このように流せばコイル両端の電圧が高くなるため、素早く電流をゼロにすることができるはずです。


以上がありとなしの差で、以下は両方同じとします。


コイル電流は約30Aで定電流制御し、なるべく電流の変動が小さいようにコンデンサは150V前後とします。


各段の通電は以下のように行います。
①センサ1が反応した瞬間、1段目を通電
②センサ2が反応した瞬間、1段目を停止、同時に2段目を通電
④センサ3が反応した瞬間、2段目を停止、同時に3段目を通電
⑤センサ4が反応した瞬間、3段目を停止、同時に4段目を通電
⑥センサ5が反応した瞬間、4段目を停止、同時に5段目を通電
⑦センサ6が反応した瞬間、5段目を停止
といった感じで通電させます。(コイル+センサ)の長さとプロジェクタイルが両方同じ35mmなのでこの動作で大丈夫なはずです。


速度の測定は、速度測定用センサの信号を直接オシロスコープで観測し、プロジェクタイルがセンサを通過する時間と、2つのセンサを通過する時間差を測定します。プロジェクタイルの長さもしくはセンサの間隔から速度を計算し、それらの平均を結果とすることにします。




実験結果です。

生データはこんな感じ。6サンプルずつしか無いですがさほど大きな差はないので大丈夫でしょう。
生データ

速度・効率の平均は以下の通りでした。

電流引き抜きなし
速度:14.77m/s
効率:7.65%

電流引き抜きあり
速度:18.20m/s
効率:12.33%


波形です。
CH1(黄色):速度測定用センサ1波形
CH2(水色):速度測定用センサ2波形
CH3(紫色):A回路電流波形(オペアンプを通した後)
CH4(青色):B回路電流波形(オペアンプを通した後)

電流引き抜き無し
DS1Z_QuickPrint149

電流引き抜きあり
DS1Z_QuickPrint1


CH2(水色)をコンデンサ電圧にして波形を見てみました。
電流引き抜きなし
DS1Z_QuickPrint152

電流引き抜きあり
DS1Z_QuickPrint3


電流引き抜きありとなしでは出力・効率ともに引き抜きありのほうが良いという結果がでました。余裕があるのであれば、電流引き抜き回路がある分に越したことはなさそうです。

電流引き抜きなしの電流波形を見ると、各段電流を止めようとしたところでグニョンと曲がっています。普通のコイルの場合はそのままだんだん落ちていく波形になるはずですが、途中で横ばいになったり、5段目に至っては電流値が一瞬上昇しています。プロジェクタイルが抜けていくことによってインダクタンス値が減少、代わりに電流値が上昇しているんだと思いましたが、プロジェクタイルの運動エネルギーが回生されてコイル側に返ってきているとも見えます。SRモータの回生動作と同じような感じがします。よく考えたらLGなんてリニアSRモータみたいな感じですしね。

今回の実験では「電流引き抜き自体に効果がある」ということを確かめることができましたが、それがどれくらい効くのか、確実に効くのかは、条件を変えて確かめる必要がありそうです。