いままで公開してなかったんですが、携行型レールガンを作りました。以前みたいに作るって言って作れなかったらなんか嫌なので....。2年前から作っておりました。

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  動作風景
とりあえず動作風景。こんな感じで動きます。


大衆向けのちゃんとした動画は気が向いたら作るかも。気が向いたので作りました。上の動画のほうが動作の内容は詳しいかも。



  スペック
入力エネルギー:360 V  7.5 mF  486 J
出力エネルギー/速度:約20~25 J / 約550~600 m/s
レールガン変換効率:平均4.68 %  最大5.27 %
プロジェクタイル:針金(アーマチュア兼飛翔体)
連射間隔:最短5 秒
射程:?
装弾数:6 発
照準器:レーザーサイト
電源:リポバッテリー(4S)
本体重量:約3 kg


界隈的空き缶換算だと多分アルミ缶5個以上いけると思いますが、エイムがガバって3個までしか貫通したことがありません。
スチール缶は1個が限界のようです。


  推しポイント
この作品の推しポイントは
  • 携行型である
  • 高効率・高出力である
  • 連射できる
  • 安全対策を施している
です。

以前の個人製作のレールガンの多くは「プラズマ式」で、大きなエネルギーを入力する必要があることや1発ごとにメンテナンスが必要など、携行化するには難しいものでした。
今回採用した「高オーグメント型・コの字ソリッドアーマチュア式」は、少エネルギー領域で高効率で、メンテナンスも数十発ごとでいいという特徴があり、上の3点を実現することができました。よくある個人制作のレールガンは効率1%程度ですし、このサイズ感で5%出てるのはなかなか良いんじゃないかと思ってます(自画自賛)。さらに言えば、加速力にプラズマ圧などの補助を利用せず、純粋な電磁力のみで加速する正真正銘の「レールガン」というのもウリのひとつです。
高出力な充電回路を開発したことも携行性と連射性に寄与しています。
まぁ、連射についてはレールガンの中では早い部類って感じですけど...。

安全についてですが、作っといていうのもアレなんですけどレールガンは本質的に危険なため何らかの対策をしたほうが良いと思われます。持ち運べるものですと各種法律などに抵触する可能性もあります。※EMLは銃刀法には該当しないとされています。軽犯罪法的な観点です。
そこで、"運用上の安全"を「本体」と「管理装置」の2つで構成することで確保したつもりです。
管理装置と本体は通信を行い、管理装置がOKを出した場合のみレールガンを動かすことができます。

↓本体
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↓管理装置
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管理装置は「特定のWiFiに接続すること」「特定のサーバーに接続すること」「GPSで自宅付近にいること」が確認できなければ起動できません。さらに、本体との通信は赤外線を使用し、電源もコンセントにすることで室内にいる確率を高めています。こうすることで実質的に携行不可・限られた空間(自室)でしか運用できないようにしようという考えです。
起動したあともパスワードを入力する必要があり、これは私しか知らないので、他人の運用は難しくなります。
通信は簡易的ですが暗号化してあります。通信が途切れて一定時間が経過するとレールガンが無効化されたりなんて機能もつけました。あと単に設計ミスですが通信距離がめちゃんこ低いのも一役買っt
まぁ色々抜け道がある気がしますが、それはカッターナイフを乱用するのと同じようなものです。
本体にGPSやらを付ければよかったかもしれないですが、後から思いついたのでそんなスペースないってのとコンセント給電する必要があるなと思ったのとやっぱり本体は持ち運びたいってのでこんなんなりました。
もちろん、回路的な安全もフェイルセーフな設計や保護回路などで確保しているつもりです。


  中身の紹介
全部は紹介しきれないので概要程度に留めます。とか言っておきながらいっぱい書いちゃったかも。

製作当初、技術的にも物理的にもあるもの組み合わせて適当に作っちゃおうぜという設計をしていました。なので基本構想として、それまで作ったレールガンコンデンサ充電器をもとにして、それを以前作ったコイルガンみたいな筐体にまとめるという形になっています。筐体はコイルガンと似せて兄弟感(?)を出したかったのもあります。

全体構成
図

ちょっとだけ外装を開けて中を見てみた感じ
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全体回路図※誤りがある可能性があります。気が付き次第修正します。
回路図PCB版


1.レールガン本体・アーマチュア
レールガンは高オーグメント型・コの字形ソリッドアーマチュア式です。
"高"オーグメント型は磁束密度を強化するための"オーグメントコイル"を装備していることが特徴で、これにより少入力エネルギー領域で高出力・高効率で安定して発射できるようになりました(茶色い部分がコイル)。また磁束を強化するだけでなく、インダクタンスのおかげで電流波形がいい感じになるので、それによる高効率化や、サイリスタスイッチなどの各部品への負担も軽減できます。
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このレールガンのパラメータはL0=3.6uH、L'=7~8uH/mくらいです。

アーマチュアはアルミ針金をコの字に曲げたソリッドアーマチュアで、これ自体が飛翔体(プロジェクタイル)となります。
コの字にすることで電磁力がレール方向にもかかるため接触が良くなります。針金なので柔軟で、低コストで作りやすいというのも利点です。
後ろのほうが少し曲がってるのは装填機構で押しやすくするためです。
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これら方式の採用と工夫のおかげでレールの損傷が減り、メンテナンスをあまり行う必要がなく、連射性に寄与しました。
さらに今回、損傷しにくいとされる銅タングステン製レールを使用したためさらなる安定性が期待できます(※まだそんなに撃ってないからわからない)。
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高オーグメント型・コの字形ソリッドアーマチュア方式は2014年にはじめて考案・製作して、以後色々と遊んできたため使い勝手がわかり、本作品への適用がスムーズにできました。というかこれを開発したこと自体が本作を作る動機になっています。


2.マガジン・プロジェクタイル装填機構
はっきり言って失敗した部分です。
マガジンは実銃のボックスマガジンと同じような構造になっていて、プロジェクタイルを棒で押すことでレールガン内に挿入します。
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装填
レールガン本体の寸法的にレールが上下になるような配置としてしまったので、マガジンも必然的にプロジェクタイルが縦になるような設計になりました。しかしこれが良くなかったようで、マガジンのバネが押し戻す力で針金アーマチュアが変形してしまい装填がうまくいかないときがあります。バネが強すぎるのかもしれないです。
挿入する棒とツマミの部分もなんだかスムーズに動かなかったりします。構造的欠陥はもちろんのこと、レールガンで発生する煤が挿入する棒やマガジンにこびりついてそれが摩擦になっているようです。あとは、プロジェクタイルが手加工なので寸法が若干違ってキツキツ/ガバガバになってたり、レールの損傷でスムーズじゃないとかそういうのもあります。
まぁとにかくこの部分はジャムったり引っかかったりという感じでそもそもの構造が良くないようです。だからといって改造もできなさそう...。
射撃による煤・プラズマが回路側に入り込むのを防ぐために仕切りを設けたのは正解でした。


3.レールガン電源・発射回路
回路図でいうとレールガンの電源(コンデンサ)および放電経路周辺を個人的にそう呼んでいます。
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レールガンの電源のコンデンサは360V 7.5mFの486Jです。
主スイッチは携行化・連射のためディスクサイリスタを使用しましたが、使うにあたり「サイリスタをしっかり駆動してみた」や「ディスクサイリスタを分解してみた」で書いたような工夫をしています。というかしなければならなかった。
本作品の特有の動作として充電後にアーマチャが挿入されることも考えられ、その場合サイリスタのdv/dt定格を超過する恐れがあったため、スナバもつけておきました。なくても大丈夫かもしれませんが場所的余裕もあったし念のため。
クローバ回路(還流ダイオード)も付ける必要があったのですが、レールガンと並列ではなくコンデンサに並列になっています。理由はダイオードの定格不足が根本的な原因なんですが、レールガンに並列の場合ダイオードがオープンモードで飛んで、サイリスタも巻き添えで死んだんすわ。でもコンデンサに並列ならダイオードが飛んでもクソ高いサイリスタは飛ばないよね?ということでこうなっています。後に知ったのですが、レールガン並列クローバの場合、クローバへ転流した際にサイリスタへクソデカ逆電圧がかかることもあるらしく、結果的にはコレで良かったかなと思います。

連射間隔が5秒なのは、これら回路とレールガン本体の熱的負担を減らすためです。高い部品なのでどうしても慎重になってしまいます。
あとは当たり前ですが主電流が流れる配線はできるだけ太くして抵抗を小さくすることで効率を上げようとしています。接触抵抗にも気を配ってめっちゃ磨いたりしました。


4.バッテリー・制御回路
携行化にはバッテリー駆動が必須で、今回は寸法的にLiPoの4S(14.8V)にしました。動画を見てもらえればわかるかと思いますが、レールガンの後部の蓋を開けてそこに適当に押し込めます。

制御基板には昇圧コンバータとサイリスタドライバが搭載されており、それらの制御やディスプレイ、トリガ、通信などは1つのマイコンで行います。
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昇圧コンバータはリポの15V程からレールガン電源のコンデンサに充電するためのものです。以前製作した昇圧チョッパをもとに、それに降圧コンバータを組み合わせたような形をしています。コンデンサ電圧が電源電圧より低い場合や、出力短絡の場合でも安全に正常に動作させたいということでこのような形にしました。試しに出力短絡してみましたが正常動作してくれました。
さらに出力にはリレーによる物理スイッチがあり、射撃時に発生する逆電圧やノイズを遮断します。
制御は電流ヒステリシス制御なので0Vから定格電圧の360Vまで安全に充電することができます。
コンバータの出力電力は約100Wに設定しており、コンデンサの充電時間は4.1秒~4.7秒です(リポの残量次第)。設定によっては150W位は出るんですが、前述の理由でそんなに早く充電する必要がないため、低出力にしてコンバータでの損失(発熱)を低減させました。DS1Z_QuickPrint1

サイリスタドライバはさっき書いた通りしっかり駆動する回路を搭載しています、というかこのためにいろいろ実験したんすけどね。
SCRwave

基板の起動時には簡易的な自己チェックが走ります。ADC値が適正かどうか、コンバータのMOSFET達をONしてみて電流が流れるか流れないか、リレーをオンオフさせるとか、それで壊れていないかなどを判断します。
ヒューズはもちろんのことUVLO、OVP、OCP、OTPなど基本的な保護も搭載してあります。


5.管理装置
役割は前述のとおりです。
ESP32を主体とした制御回路、キーパッド基板、電源基板をいい感じのケース(タカチCH型)にいい感じに収めました。
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  総評
全体的にはまぁまぁ良く出来たかなと思っています。
前作のコイルガンでは重心が前すぎてヤバかったので今回は中心にして持ちやすくなりました。が、3kgあるので重くてその点では悪化しました。
各所に不満点があり、特にプロジェクタイル(発射物)のマガジン・装填周りは失敗しました。
そのほか、毎度のごとく機械的な構造や強度は全く計算もせずテキトーに作ってしまったのでヤバそうなところが多々あります。今度なにか作るときはなんとかしたいです。
電気的な面に関しては(少なくとも構造関連よりは)よく考えて作ったのでうまく動いてくれてます。

作り始めた当初はある物でサクッと作っちゃおうという感じだったのですが、うまく動かず試行錯誤をしてたら丸2年が経っていました。今ならもっと良い設計ができるでしょうが、それはこれを作ってからわかったことや勉強したことがいっぱいあったからです。
試行錯誤と勉強のおかげレールガンのシミュレータが作れて色々遊べるようになったのも良かったです。

持ち運び可能なレールガンを作ると言うのは昔からの夢でしたので、ひとまず完成して嬉しく思っています。



  今後
・マガジンのバネを柔らかくする
マガジンのバネが硬すぎ疑惑があったのでもう少し細いピアノ線でバネを作ってみようかと思います。

・レールの損傷が連射性に及ぼす影響の検証
実は最初はただの銅レールで実験していたのですが、レールの損傷と装填機構の不具合も相まって、20発程度撃つと装填しにくくなっていました。
そこで損傷に強い銅タンレールにしたわけですが、現状15発くらいしか撃ったことがないので、もっと撃ってどれくらい耐えられるのか試してみたいです。今のところは問題ないように感じます。
本作品に限らず銅タンがどれくらいのポテンシャルを持っているのか見てみたいです。
ちなみに下の写真が銅レールで、それなりに損傷しています。スライスして断面も見てみると、アーマチュア初期位置付近で凹んでいることがわかります。
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・全体の修繕
2年前から試行錯誤してきたのでいろんなところにガタが来ています。特にアクリル部品なんかはパークリぶっかかったりネジを締めすぎたりしてヒビ入りまくってます。
修繕してきれいな状態でNTなどのイベントでお見せできるといいなと思っています。



  その他写真

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2023/12/21
非常に残念ですが、自己破壊コマンドを実行。起動できなくしました。