①理論編、②製作編の続きです。
この記事では実際に射撃を行い、並行ケーブルと同軸ケーブルの比較を行います。
実験方法
レールガンを実際に撃ってみて、同軸ケーブルを使用したときと並行ケーブルのときの比較を行います。
比較のポイントは
①ケーブルが動くか動かないか
②出力、効率はどうか
の2点とします。
以下の回路図で実験を行い、このうちの電力伝送ケーブルのみを交換します。

レールガン本体は携行型レールガンに搭載しているものを使います。
実はレールガン2号機で実験したかったのですがどうも不調だったので急遽変更しました。まぁ携行型レールガン搭載品はパラメータが詳しくわかってて実験しやすいってのもありました。

レールはキレイに研磨しておき、損傷が発生した場合は再研磨、続行できそうならそのまま継続します(分解するとそっちのほうが条件大きく変わりそうなので)。損傷発生判定は目視だけでなく発射時のレール間電圧の監視も併用します。結果的には再研磨せずぶっ続けで行えました。
写真は射撃前のレール(片側)です。

プロジェクタイルはいつものアルミのコの字アーマチュアです。なるべく同じ質量になるようにします。
レールガンの電源は実験用電源を使います。入力エネルギーは450 V 5600 uF※容量抜けありの最大560 Jです。これはレールガン本体のパラメータと相談していい感じのものを選びました。

ケーブルの結線はこんな感じ。ケーブルの定数測定における条件④と条件⑥のイメージです。2本ケーブルを使って純粋に"並行"か"同軸"かの違いのみを作り出すようにしています。
レールガン側しか写ってないですが電源側も同じです。
↓同軸ケーブルの場合の接続

↓並行ケーブルの場合の接続

計測は弾速やプロジェクタイルの質量の測定、動画撮影のほか、各点にプローブをつけて(回路図参照)電流・電圧波形を取得して実験の考察に利用します。ロゴスキーコイル出力の積分や素子間電圧算出のため、波形はPCで処理します。



製品のロゴスキーコイルを買ったので、レール電流はわりと信用できそうな値が出ると思います。
全体的にはこんな感じ(動画の切り抜き)
電源部とレールガンは1 mくらい、レールガンと弾速計のワイヤーカット部は10 cmくらい離れてます。レールガンは土台に固定されています。

実験は同軸ケーブル、並行ケーブルで各3回ずつ行いました。回数が足りない?一発一発わりと時間かかってそんなに実験できなかった
実験結果・考察
データとりあえず全部載せときます 全部載せる必要なさそうですけど
・動画
・数値と出力エネルギー・効率グラフ


・電圧電流波形
素子間電圧のグラフでは各測定点の差分を取ったりしています。


・おまけ プロジェクタイル質量の写真

①ケーブルが動くか動かないか
動画を見れば一目瞭然、並行ケーブルは動き、同軸ケーブルは全く動いていません。
②出力・効率はどうか
数値やグラフの通りで、同軸ケーブルのほうが出力エネルギーは約1.2 J(7 %)、効率は0.32 ポイント(9 %)高くなっています。
3回ずつしか実験できませんでしたが、それぞれの条件においてまとまりのある結果が得られており、明確な差が見られます
波形も条件ごとでほぼ同じであり、安定した実験ができていたようです。
波形は全体的に異常はなく、もはやお手本みたいな波形を取ることができました。速度起電力、アーマチュア離脱後のアークの電圧、クローバ回路転流など、かなり綺麗に取れてます。
ちなみに、6発射撃後のレールは下の写真の通り無損傷で綺麗なままでした。


波形からもVrailが起電力+電圧降下分程度より上昇していないことから(※アーマチュア離脱より前)、接触不良も起こっていなかったと言えます。運よく接触が良かった。
レールガンでは撃つたびにレールが損傷して出力が落ちるので、後半の実験=並行のほうが出力が低いのは損傷のせいなのでは?とも思いましたが、それも否定できそうです。
さてそれでは、同軸のほうが出力・効率が良い理由がなんなのかを考えてみます。
今のところ考えられるのは
・ケーブルが動かなくて運動エネルギー損がなかったから説
・配線インダクタンスが小さくできたから説
です。
まずは運動エネルギー損説について計算してみます。ただ、ケーブルは雑な動きをしているため、かなり大雑把になります。
主に黒いケーブルだけが上に持ち上がってるように見えるので、赤いケーブルは運動エネルギーゼロということにします。
ケーブルは5フレーム(240 FPS)で約2 cmくらい動いているので、0.48 m/sくらいです。
ケーブルの重さは1本約0.22 kgなので、運動エネルギーはおおよそ0.1 Jということになります。
思ってたよりもかなり小さく、ガバガバ計算を修正したとしても運動エネルギーによる損失が影響しているとは考えにくいかもしれません。
それでは次に配線インダクタンス低減説です。
波形を見てパッと目につくのは、ケーブル電圧Vwireとレールガン投入電圧Vinです。
同軸の場合はVwireは小さくVinはコンデンサ電圧に近い電圧を投入できていることがわかります。
一方、並行の場合では配線Lが大きいためVwireが大きく、Vinが小さくなっていることがわかります。
このような波形は理論編で紹介したシミュレーション波形のとおりです。
条件を実測に合わせて再度シミュレーションを行い、実測波形と重ねてみると、まぁまぁ一致していることがわかります。ちょっとずれてますけど測定点とかパラメタ誤差の影響があると思います。
同軸と平行を比較すると結構違います。

シミュレーションでは"ケーブルの動き"を考慮していないにも関わらずシミュレーションと一致しています。
つまり、同軸と並行での性能差はほとんど配線インダクタンスによると考えられ....と言いたいところですが、正直なところシミュレーションも実はうまくできていない可能性...というかなんか考え方間違ってる気がしなくもないので、なんとも言いにくいです。
ですが運動エネルギー損の影響は小さそうということから、運動エネルギー損低減よりも、配線インダクタンス低減が大きく効いた可能性が高いと考えています。
やる気が出ればこの辺も実験して比較してみたいところです。
まとめ
今回はレールガンの電力伝送ケーブルに同軸ケーブルを使ってみました。また、並行ケーブルとの比較も行いました。
並行ケーブルでは"ケーブルの跳ね"が生じましたが、
同軸ケーブルを使用した場合では"跳ね"が起こらず、出力・効率も高くすることができました。
同軸のほうが出力・効率が良かった理由は、配線インダクタンスが減らせたことだと考えています。
同軸ケーブルの並列数を増やすとさらにインダクタンスが低減できるようなので、より改善できる可能性もあります。
欠点としては配線の自由度が少ないことです。長さを調節したりするのはちょっと面倒だったり、配線が短すぎる場合は同軸にできない(orやる意味がない)かもしれません。
...ここまで書いておいて言うのもアレですが、パルスパワーの世界じゃ同軸使うのって常識なんスかね?某米軍のレールガンとか、某衛省のとか、動画を見るとやっぱり跳ねてません。あと電線をめっちゃ並列にしてるのは抵抗下げるとか配線の取り回しの問題以外にL下げる目的もあったりするんですかね?私はホンモノのパルスパワー装置を見たことがないのでよくわかりません...。
実験したらいい結果だったって記事だから許してくれ
まぁ何にせよ、同軸を使えば安全性と出力を手軽にアップできるので、使えるところには積極的に使っていきたいと思います。
この記事では実際に射撃を行い、並行ケーブルと同軸ケーブルの比較を行います。
実験方法
レールガンを実際に撃ってみて、同軸ケーブルを使用したときと並行ケーブルのときの比較を行います。
比較のポイントは
①ケーブルが動くか動かないか
②出力、効率はどうか
の2点とします。
以下の回路図で実験を行い、このうちの電力伝送ケーブルのみを交換します。

レールガン本体は携行型レールガンに搭載しているものを使います。
実はレールガン2号機で実験したかったのですがどうも不調だったので急遽変更しました。まぁ携行型レールガン搭載品はパラメータが詳しくわかってて実験しやすいってのもありました。

レールはキレイに研磨しておき、損傷が発生した場合は再研磨、続行できそうならそのまま継続します(分解するとそっちのほうが条件大きく変わりそうなので)。損傷発生判定は目視だけでなく発射時のレール間電圧の監視も併用します。結果的には再研磨せずぶっ続けで行えました。
写真は射撃前のレール(片側)です。

プロジェクタイルはいつものアルミのコの字アーマチュアです。なるべく同じ質量になるようにします。
レールガンの電源は実験用電源を使います。入力エネルギーは450 V 5600 uF※容量抜けありの最大560 Jです。これはレールガン本体のパラメータと相談していい感じのものを選びました。

ケーブルの結線はこんな感じ。ケーブルの定数測定における条件④と条件⑥のイメージです。2本ケーブルを使って純粋に"並行"か"同軸"かの違いのみを作り出すようにしています。
レールガン側しか写ってないですが電源側も同じです。
↓同軸ケーブルの場合の接続

↓並行ケーブルの場合の接続

計測は弾速やプロジェクタイルの質量の測定、動画撮影のほか、各点にプローブをつけて(回路図参照)電流・電圧波形を取得して実験の考察に利用します。ロゴスキーコイル出力の積分や素子間電圧算出のため、波形はPCで処理します。



製品のロゴスキーコイルを買ったので、レール電流はわりと信用できそうな値が出ると思います。
全体的にはこんな感じ(動画の切り抜き)
電源部とレールガンは1 mくらい、レールガンと弾速計のワイヤーカット部は10 cmくらい離れてます。レールガンは土台に固定されています。

実験は同軸ケーブル、並行ケーブルで各3回ずつ行いました。回数が足りない?一発一発わりと時間かかってそんなに実験できなかった
実験結果・考察
データとりあえず全部載せときます 全部載せる必要なさそうですけど
・動画
・数値と出力エネルギー・効率グラフ


・電圧電流波形
素子間電圧のグラフでは各測定点の差分を取ったりしています。


・おまけ プロジェクタイル質量の写真

①ケーブルが動くか動かないか
動画を見れば一目瞭然、並行ケーブルは動き、同軸ケーブルは全く動いていません。
②出力・効率はどうか
数値やグラフの通りで、同軸ケーブルのほうが出力エネルギーは約1.2 J(7 %)、効率は0.32 ポイント(9 %)高くなっています。
3回ずつしか実験できませんでしたが、それぞれの条件においてまとまりのある結果が得られており、明確な差が見られます
波形も条件ごとでほぼ同じであり、安定した実験ができていたようです。
波形は全体的に異常はなく、もはやお手本みたいな波形を取ることができました。速度起電力、アーマチュア離脱後のアークの電圧、クローバ回路転流など、かなり綺麗に取れてます。
ちなみに、6発射撃後のレールは下の写真の通り無損傷で綺麗なままでした。


波形からもVrailが起電力+電圧降下分程度より上昇していないことから(※アーマチュア離脱より前)、接触不良も起こっていなかったと言えます。運よく接触が良かった。
レールガンでは撃つたびにレールが損傷して出力が落ちるので、後半の実験=並行のほうが出力が低いのは損傷のせいなのでは?とも思いましたが、それも否定できそうです。
さてそれでは、同軸のほうが出力・効率が良い理由がなんなのかを考えてみます。
今のところ考えられるのは
・ケーブルが動かなくて運動エネルギー損がなかったから説
・配線インダクタンスが小さくできたから説
です。
まずは運動エネルギー損説について計算してみます。ただ、ケーブルは雑な動きをしているため、かなり大雑把になります。
主に黒いケーブルだけが上に持ち上がってるように見えるので、赤いケーブルは運動エネルギーゼロということにします。
ケーブルは5フレーム(240 FPS)で約2 cmくらい動いているので、0.48 m/sくらいです。
ケーブルの重さは1本約0.22 kgなので、運動エネルギーはおおよそ0.1 Jということになります。
思ってたよりもかなり小さく、ガバガバ計算を修正したとしても運動エネルギーによる損失が影響しているとは考えにくいかもしれません。
それでは次に配線インダクタンス低減説です。
波形を見てパッと目につくのは、ケーブル電圧Vwireとレールガン投入電圧Vinです。
同軸の場合はVwireは小さくVinはコンデンサ電圧に近い電圧を投入できていることがわかります。
一方、並行の場合では配線Lが大きいためVwireが大きく、Vinが小さくなっていることがわかります。
このような波形は理論編で紹介したシミュレーション波形のとおりです。
条件を実測に合わせて再度シミュレーションを行い、実測波形と重ねてみると、まぁまぁ一致していることがわかります。ちょっとずれてますけど測定点とかパラメタ誤差の影響があると思います。
同軸と平行を比較すると結構違います。

シミュレーションでは"ケーブルの動き"を考慮していないにも関わらずシミュレーションと一致しています。
つまり、同軸と並行での性能差はほとんど配線インダクタンスによると考えられ....と言いたいところですが、正直なところシミュレーションも実はうまくできていない可能性...というかなんか考え方間違ってる気がしなくもないので、なんとも言いにくいです。
ですが運動エネルギー損の影響は小さそうということから、運動エネルギー損低減よりも、配線インダクタンス低減が大きく効いた可能性が高いと考えています。
やる気が出ればこの辺も実験して比較してみたいところです。
まとめ
今回はレールガンの電力伝送ケーブルに同軸ケーブルを使ってみました。また、並行ケーブルとの比較も行いました。
並行ケーブルでは"ケーブルの跳ね"が生じましたが、
同軸ケーブルを使用した場合では"跳ね"が起こらず、出力・効率も高くすることができました。
同軸のほうが出力・効率が良かった理由は、配線インダクタンスが減らせたことだと考えています。
同軸ケーブルの並列数を増やすとさらにインダクタンスが低減できるようなので、より改善できる可能性もあります。
欠点としては配線の自由度が少ないことです。長さを調節したりするのはちょっと面倒だったり、配線が短すぎる場合は同軸にできない(orやる意味がない)かもしれません。
...ここまで書いておいて言うのもアレですが、パルスパワーの世界じゃ同軸使うのって常識なんスかね?某米軍のレールガンとか、某衛省のとか、動画を見るとやっぱり跳ねてません。あと電線をめっちゃ並列にしてるのは抵抗下げるとか配線の取り回しの問題以外にL下げる目的もあったりするんですかね?私はホンモノのパルスパワー装置を見たことがないのでよくわかりません...。
実験したらいい結果だったって記事だから許してくれ
まぁ何にせよ、同軸を使えば安全性と出力を手軽にアップできるので、使えるところには積極的に使っていきたいと思います。