最近はレールガンで遊んでいますが,その電流波形を見たくなり,去年あたりにロゴスキーコイルを作りました。レールガンの電流は趣味程度でも数 kA~数十 kAにものぼるため,お金をかけずにこのような大電流を測るにはロゴスキーコイルを自作するのが一番でした。
作ったロゴスキーコイルで測定した波形はおおよそ理論値通りでしたが,測定対象の真値がわからない上に,ロゴスキーも設計通りの値を出しているかわかりません。また,何回か測ってるうちにロゴスキーの取り付け方などでも値が変わることもわかりました。そもそもロゴスキーコイルは取り付け位置により誤差が生じるものですが,測定対象の真値がわからないので誤差がどれくらいなのかも評価できませんでした。
そこで,適当な小さめの電流を,自作ロゴスキーコイルと他の性能の良い(小さい電流なら測定可能な)電流センサで測定し,比較することで評価をしようということを考えました。
今回はその"適当な電流"を発生させる装置を作りました。

発生させる"適当な電流"ですが,ロゴスキーコイルは測定電流の微分(di/dt)が出力となることから,di/dtを重視することにしました。今作っているレールガンは大体数百 A/usとかそんなものなので,数us流すだけで数百 Aにもなります。
このような条件を満たすため,電流を生成する回路にはLCR放電回路を用いることにしました。
また,基準となる電流センサは某緑色の高性能高周波CTを用いることにし,こちらの定格にも収まるように注意しました。
もちろん放電するスイッチの定格も考えたり,小型が良いなとか電流値可変が良いなとか,使い勝手も考えていい感じになるように定数を決定しました。

で,色々考えて試行錯誤して完成したのがこちら
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回路図
回路図

LCR放電回路,充電用の昇圧コンバータ,制御用のマイコンで構成されています。
コンバータによりコンデンサ(C10)に設定電圧まで充電したら,スイッチ(Q3,Q4)をオンすることで出力のインダクタ(L2)に放電するという動作を繰り返します。周期はとりあえず5回/秒にしました。
充電電圧はボタンをポチポチ押して可変できます。
使い勝手を考えて基板サイズはB基板に抑え,15 V 0.5 Aの電源で運用できるようにしました。
色々いじったせいで基板も回路もぐちゃぐちゃになってしまいましたがまぁ動くのでいいです。

おもしろポイントはおっきい輪っかのところです。
ここが発生させた電流を流すところで,ここに目的の電流センサを取り付けます。
そして,これ自体がLCR放電回路の「L」となっています。事前の大まかな計算で必要なインダクタンスは1 uH以下ということがわかっており,それくらいならちょっと配線を這わせるだけで生じます。
電流センサを取り付けるところもまぁまぁの大きさが必要なので,ならば電流センサの取り付け場所をインダクタとして使ってしまおうという考えに至りました。
その他,様々な対応ができるようにネジ端子で接続にしたり,大電流が流れるので強度がほしいとか,発生する磁界がキレイな感じかいいとかで,ちょっとゴツい感じになりました。

還流ダイオードも着脱可能とすることで,振動波形と非振動波形を切り替えできるようになりました。
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なかなかエクストリームな実装をしてるんじゃないかと思いますが,着脱可能かつ還流経路中のインダクタンスを低減させたいがゆえの結果です。

そして,発生させた電流波形の測定結果がこちら

CH1(黄):メインインダクタ電圧(VL)
CH4(青):メインインダクタ電流(IL)
※電流は基準用の高性能CTで測定

・振動波形
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・非振動波形
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きれいな波形が出せてると思います。



  設計
必要なスペックからLCR放電回路のインダクタンスとコンデンサ容量を決めます。
今回,レールガン向けロゴスキーコイルを評価するという目的から,di/dt = 500 A/usが出せるようにし,かつ一般的な部品で作れるように設計しました。また,放電時間もそんなにいらないのでエネルギー量をできるだけ小さくして小型化と部品への負担を小さくするように配慮しました。
勘ジニアリングによれば,Lは1 uH以下くらい,Cは数 uFくらいになるはずです。


・主スイッチ
コンデンサの電荷をインダクタに放電する主スイッチは,di/dt = 500 A/usで数百 Aに耐えなければいけません。こういような回路にはよくサイリスタが使われますが,500 A/usとなると一般的なサイリスタでは壊れてしまう可能性があります。そこで,今回はパルス定格300AのIGBTを用いることにしました。


・インダクタ
メインインダクタは上にも書きました通り低インダクタンスかつ電流センサ取り付け場所と兼ねるため,銅線を曲げただけの3/4巻コイルみたいな感じにしました。適当に銅線を折り曲げて作りましたが,実際どれくらいのインダクタンスになるかはわからなかったので,最初にこれを作ってからインダクタンスを測定し,他の定数を決めるという流れになりました。
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これのインダクタンスLを測ってみたところ,約0.4 uHくらいでした。


・充電電圧
今回ほしいdi/dtは500 A/usとしましたので,このインダクタにかける最大の電圧V(=コンデンサ充電電圧)は以下の式のようになります。
\[V=L\frac{di}{dt}=0.4\times10^{-6}\times500\times10^{6}=200\rm{[V]}\]


・コンデンサ
コンデンサの容量Cは使用するスイッチの定格電流を考慮して決めました。
LCR放電回路におけるピーク電流は
\[I=V\sqrt{\frac{C}{L}}\]
※R=0の場合。今回Rがかなり小さいのでこの式を使用
ですので,Cが大きすぎると大電流が流れてスイッチが壊れてしまう可能性があります。スイッチの定格が300 Aですので,ピーク電流を300 Aに抑える必要があります。
上の式を変形してCを求め,必要な値を代入すると,
\[C=\frac{LI^2}{V^2}=\frac{300^2\times0.4\times10^{-6}}{200^2}=0.9\rm{[{\mu}F]}\]
となりました。
ただ,そんな都合の良い容量のコンデンサはないので1 uFとしました。
スイッチの定格は考えるわりにコンデンサの定格電流は無視しちゃいます,多分大丈夫だし寿命とかどうでもいいので。
 
とまぁ計算しましたが,実際には部品の誤差もあったり0.9 uF→1 uFにしちゃったりしてますんで,調整は充電電圧で行います。そもそもの目的がセンサ同士の比較ですので電流値の精度とかは関係なくてある程度電流が流れてくれればそれで良いんです。
今回は255 Vまで充電できるようにして少しの過出力も出せるようにしました(450 Vまで入れても壊れなかったから多分大丈夫!)



  試行錯誤

・主スイッチ部
回路図を見ていただくと,放電するためのスイッチがIGBT+MOSFETとなっていることがわかると思います。
最初はIGBTだけでスイッチングを行う予定でしたが,IGBTにはVCE(sat)と内臓ダイオードのVFがあり,スイッチ電圧が電流に対して非線形になることから,電流ゼロ付近で波形が歪んでしまいます。
下は実際の波形で,試しに取り付けた自作ロゴスキーコイルの出力波形からはちょうど電流がゼロとなるところでカクッとなっています。また,スイッチ電圧波形からはVCE(sat)とVFが見られます。
 
CH1(黄):基準電流センサ(メインインダクタ電流)
CH2(水):ロゴスキーコイル出力(メインインダクタ電流の微分)
CH3(桃):スイッチ電圧
MATH(紫):ロゴスキーコイル出力積分(=メインインダクタ電流波形)
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MOSFETはIGBTのようなVCE(sat)はなく単純なオン抵抗としてみなすことができるので,ゼロ付近のスイッチ電圧がなめらかになってくれないかな~?と思い,IGBTに並列に接続してみました。
↓実際の波形
DS1Z_QuickPrint1
 
う~ん,特に電流が正→負になるときなんかはあんまり改善しませんでしたね。ちょっとは改善したし特段問題はないのでヨシ!とします。

ついでに自作ロゴスキがそこそこ使えそうなことがわかったので,この後の実験にも使いました。ただちょっと遅れが見られるのであくまで大体の波形しか得られないことに注意しなければいけません。


・還流ダイオードの代わりにIGBTを使ってみる
振動波形と非振動波形は還流ダイオードを着脱することで切り替えることができます。しかし,いくらネジ端子で簡単に着脱可能とはいえドライバで回すのが面倒です。
そこでダイオードの代わりにIGBTを用いればワンタッチで切り替えできるのではないかと思い,以下のような回路にしてみました。
還流IGBT回路図

IGBTがオフなら振動波形,オンならIGBT側で電流が回るので非振動波形になります。
実はLCR放電回路がいつもとちょっと違う形なのはこれを見越してのことで,この形なら還流用IGBTをローサイドで制御できます。

実験してみたところ,IGBTオフなら正常に波形が出ることを確認しました。
しかし,オンのときには以下に示す波形のようにすごく乱れてしまいました。

CH1(黄):IGBTゲート電圧
CH2(水):IGBT C-E電圧
CH3(桃):基準電流センサ(メインインダクタ電流)
CH4(青):ロゴスキーコイル出力(還流回路電流の微分)
MATH(紫):ロゴスキーコイル出力積分(=還流回路電流波形)
DS1Z_QuickPrint1

一応還流はしているようですが,電流が流れるとVCEが上昇しては降下しを繰り返して発振しているような感じになっています。IGBTの短絡耐量特性が効いてるのか?と思いましたが一応定格電流内なんですよね...他の型番のIGBTやMOSFETに交換しても同じような波形となりました。
よくわからなかったんでこの回路はやめることにして,結局ダイオードを付けたり外したりすることにしました。
原因をご存じの方がいれば教えてくださるとうれしいです。


・還流ダイオードの取り付け場所
還流回路部分(下の図のD_ESL)やコンデンサ・メインスイッチ回路部分(下の図のC_ESL)でもインダクタンスが生じますが,これの何がまずいかと言うと,ダイオードに流れる電流がめっちゃウネウネしてピークが大きくなって破損する恐れあります。
下はシミュレーション波形で,ダイオードの電流がメインコイルの電流よりもかなり大きくなっていることがわかります。

シミュレーション波形

C_ESLは既に基板設計時点で小さくなるようにしており,これ以上の低減は部品や物理形状的に難しいので諦めましたが,一方でダイオードは脱着可能としていたのでいくらか動かしてD_ESLを調節する余地があります。
そこで今回はD_ESLが小さくなる還流ダイオードの取り付け方法・場所について検討しました。
C_ESLとD_ESLはちょっとですが磁気的に結合してるのでダイオードを動かすだけで両方いい感じになる可能性も期待しました。


まずは基板表面
場所としては完成形と同じ。
一番取り付け取り外しがしやすそうだからってのが理由。
 
CH1(黄):メインインダクタ電圧
CH2(水):スイッチ電圧
CH3(桃):ロゴスキーコイル出力(還流回路電流の微分)
CH4(青):メインインダクタ電流
ロゴスキーの積分するのを忘れてたんで脳内でお願いします(シミュレーションとほぼ同じ感じです)
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大体シミュレーションの同じような波形が確認できます。
 
次に基板裏面
表面の場合は端子台の分の厚さがあるので,そこでインダクタンスが発生してるんじゃないかと思い,さっきの真裏の場所に取り付けてみました。
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DS1Z_QuickPrint1

表面とほぼ変わらないですね。
 
最後に基板裏面でもコンデンサに近い方に取り付けてみました。
還流するまではコンデンサの方に電流が流れており,その経路に磁束が生じてるはずです。ダイオードをコンデンサの近くに配置することで,還流前とできるだけ同じ電流経路を辿らせてインダクタンスが小さく見えるようにする作戦です。
(サーセン 実装場所の写真撮り忘れました)
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ウネウネが一山か二山くらい少なくなった気がします。

というわけで,性能面では裏面のコンデンサに近い方が一番良いようです。
しかしその差は僅かですし,それならば表面で着脱しやすい場所につけたほうがいいんじゃね?ってことで結局表面に実装することにしました。その中でもインダクタンスが一番小さくなるようにフィンをネジ端子に直接取り付ける構造にしました。物理的にも丈夫だしいい感じです。

そういえばダイオードに流れる電流が600Apeakくらいでダイオードのパルス定格電流は320 Aと思いっきり無視してるけど,あのデータシートに書いてある値はずいぶん長いパルス幅(8.3 ms)に対してであり,今回は50 usくらいなので十分耐えると判断して使っちゃいました。実際耐えてる


  実際に使ってみる
この装置の本来の目的である高性能CTと自作ロゴスキーコイルとの比較を行ってみました。
(というかロゴスキのほうが取り回しが良いんでこれ作ってる最中にロゴスキ使っちゃって大体わかってたけどな(???))
 
実験風景
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波形はノイズの影響を抑えるためにオシロで128回平均して取得しました。
CH1(黄):基準電流センサ出力
CH2(水):自作ロゴスキーコイル出力
MATH(紫):自作ロゴスキーコイル出力積分(=電流波形)
 
振動波形の場合
 DS1Z_QuickPrint1

ロゴスキーコイルは電流の微分値が出てくるので積分するともとの電流波形が出てきます。オシロ上で積分(MATH紫の波形)もできますが,測定値に僅かなオフセットが乗ったりノイズの影響等でうまく表示できません。
そこで,波形データをPCで処理していい感じになるようにしてみました。
処理には今回初めてPythonを使ってみましたが,こういうちょっとしたツール作るのには便利そうだなと思いました。
振動.csv_output

非振動波形
 DS1Z_QuickPrint2

PC処理後
非振動.csv_output

ってな感じで自作ロゴスキーも意外と基準センサに近い値が出てるんじゃないかと思います。
ちょっと周波数特性悪いんかなって感じがありますが,レールガン計測には十分使えるレベルの特性な気がします(勘ジニアリング)

ロゴスキーコイルの改良は追々やるとして,今回はその試験用のパルス電流発生装置を製作し,比較試験ができることを確認しました。回路的には完成ですが,基板裏がむき出しで危ないので後で保護用にアクリル板か何かをつけておきたいと思います。